納得を引き出す説得の技術とは
コミュニケーションの究極の目的は説得
コミュニケーションの究極の目的は、相手を「説得」することにあります。
説得とは、「相手の行動を促すために話すこと」です。
私たちが生きていくためには、常に他人の協力が必要です。他人の協力がなければ、何事もうまくいきません。
仕事の場なら、上司や部下、お客様が自発的に「うん」と言って、協力してくれることが必要ですし、プライベートでも、家族や友人が気持ちよく協力してくれれば、すこやかな毎日が送れます。
このように「協力を得るための技術」が「説得の技術」です。
人の協力を得るには、まず相手に納得してもらわなければなりません。
「俺の言うことを聞かないと後で痛い目にあうぞ」的な強引な説得では、一時的には動いてくれても長続きはしません。人間関係もゆがんでいきます。きちんと理解し、納得して、自発的に行った仕事と、ただ指示されたからという理由で行った仕事の成果や生産性は明らかに違うことも検証されています。
ですから、相手が誰でも「気持ちよく自発心を引き出すこと」が、人に協力を求めるに当たってのゴールです。
そして、この「納得を引き出す能力」こそ、「自己実現」につながっていきます。
では、どうすればよいか?
もちろん、筋道の通った論理展開は必要ですが、相手を論破したり、理詰めで勝っても、何もいいことはありません。返って相手を不快にして、心情的な反発を招くだけです。
よく「確かに、あなたの言うことは正しいけれど、そんな言い方しなくても」という声を聞きます。その通りです。正しい内容でも、言い方に工夫が必要なのです。
説得のポイント
- 説得の方向をつかむ
- 相手にとっての「メリット」と「デメリット」を説明する
- 「それならできそうだ」と思える現実的な方法を伝える
- 相手の「自尊心」に訴える
- 第三者の意見を活用する
1.「説得の方向をつかむ」
まず、相手にとって価値あるものを知ることから始めます。その人が、どんなことに価値を置いているのか?何を欲しいと考えているのか?人間は、欲しいものを手に入れようとするときに一番自発的に動くからです。
こんな笑い話があります。
外国人が多数乗っていた船が遭難し、すぐに海に飛び込んで避難しなければならなくなりました。ところが、みんな怖がって中々海に飛び込もうとしません。そこで船長が一人ひとり説得をして回ると、次々に海に飛び込みました。どうやって説得したか?
イギリス人には「こんな時、紳士は飛び込みます」
ドイツ人には「飛び込むのがルールです」
アメリカ人には「飛び込めばあなたはヒーローになれます」
フランス人には「絶対に飛び込んではいけません」
イタリア人には「さっき、美女が飛び込みました」
日本人には「みんなが飛び込んでいます」
つまり、その人がなんと言えば海に飛び込む気になるかを考えて説得をしたということです。
商品を売るための営業も、相手がどんなものを欲しがっているのか、どんなことに価値を置いているのか、どんなことに困っているのかを知って、そこを中心に話していくことで、相手の心が動かされるはずです。
例えば、車を売るのだって、相手の家族構成や子供の年齢、生活スタイルや趣味、経済的余裕などを理解してから車を勧めるのであれば、相手が買ってくれる確率が増すはずです。
ドラッカーの「理解するから理解される」という有名な言葉がありますが、相手を理解するからこそ、こちらの話に本気で耳を傾けてくれて、理解してくれるということにつながります。
2.相手の「メリット」「デメリット」について説明する
「説得」を逆から読むと「得を説く」です。
得とは、すなわちメリットのこと。人が望むのは「得をすること」と「損をしないこと」。特に「損をしたくない」という思いが強いため、「これをしないと、あなたにとってこんなデメリットがある」と言われると心が動きます。でもこれはやり過ぎると、「脅し」のようになってしまうため、「これをするとこんなよいことがあります」を強調する方が好ましいでしょう。自発的に動くためには、プラスの要素が必要です。
ただし、この場合の「得」は、決して金銭的なものばかりではありません。相手にとっての「価値あるのも」です。
人は、金銭や物以外にも、欲しいものがたくさんあります。例えば、それは
「健康」「美しい容姿」「信頼」「名誉」「権力」「評価」「尊敬」「時間」「若さ」「仕事の能力」「営業力」「文章力」「ITスキル」「心の平安」「マッチョな肉体」「ナイスバディ」「ファッションセンス」「自己成長」「家族の喜び」「友達」「愛」
これらを得るために、たくさんのお金を払ったり、多くの時間やエネルギーを費やしたりしているはずです。
仕事でも、自分にとっての価値やメリットを感じれば、意欲がわき、多少骨が折れる仕事でも「やりがい」を感じて頑張ることができます。
3.「それならやれそうだ」と思える現実的な方法が示す
「そのことをすることが、自分にとって価値があり、メリットがある」とわかっていても、人は様々な理由で行動を起こしません。「それをやればいいのはわかるけど大変そう」「時間がない」「お金がない」「能力がない」と思ってしり込みしてしまいがちです。ですから、「いやいや、そんなに大変じゃありませんよ。こんなふうにやればできるでしょ?」という、現実的な方法を提案します。
「高額な料金に見えますが、ローンを使えば1か月の支払いはわずか3000円。1回の飲み会で払うお金よりやすいでしょ?」
「1日わずか10分だけ」「たった3カ月頑張れば」「仕事の合間に」「TVを見ながらできる」等、広告にはよく使われている方法です。
仕事の依頼なら「君一人に大変な思いはさせない。自分も協力するし、君をサポートするバックアップ体制を作る」等、相手が「それならなんとかなるかも」と感じるように説得を試みます。
4.相手の自尊心に訴える
人は誰でも自尊心のかたまりです。自分の能力や価値を認められる方向に動きたくなります。相手を認め、相手の自尊心が高まる方向で説得します。
「○○さんだから言うんですけれど」「お客様はスタイルがいいのでよくお似合いです」
「お客様のようなお立場の方でしたらこれぐらいのものは身につけていただかないと」
部下育成の上手な上司は部下の自尊心の扱いが上手です。
「ちょっと骨のある仕事だけど、今の君なら十分できると思っているから言っているんだ。俺だけじゃなくて、他の連中も同じ意見だった。どうだ、チャレンジしてみないか?」。そう言われれば、「じゃあ、頑張ってみようかな」となるはずです。
5.第三者の意見を活用する
「そう思っているのは私だけじゃない。他にもこんなに同じ意見の人がいる」ということを知らせることです。上記の「俺だけじゃなくて、他の連中も同じ意見だった」という部分です。
「○○さんも、これを使って良かったとおっしゃっていました」とか、ネットなら「口コミ」にあたります。
もしくは、「○○大学の××教授の研究結果によれば」とか、「テレビのニュースでもでやっていたけれど」等、データや研究結果を添えるのも効果があります。
その他の説得話法色々
その他、代表的な「説得」や「交渉」の話法と呼ばれるものに次のような方法があります。
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アンカリング(「初頭効果」=「最初の印象」を活用する)
「アンカー」は船が動かないようにするための錨の意。アンカリング効果とは、最初に提示された条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまうことを言います。
第一印象の良し悪しでその後の印象が左右されることを「初頭効果」といいますが、この「初頭効果」を説得の際に利用することができます。
例えば、「やり方はとっても簡単です」と最初に言ってから方法を説明すると、本当に簡単と感じるとか、「これは、とってもお値打ちの品です」と言ってから商品の価格を提示すると、「安く」感じてしまうという心理的効果を狙ったものです。
スーパーなどで見かける「本日限り」「在庫限定」「定価10000円→半額の5000円」などの表示も、顧客の「お得感」を煽る「アンカリング」です。
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フットインザドア(イエステイキング = 小さなYESを積み重ねる)
セールスマンが訪問先で片足の先をドアに入れて閉まらないようにしてから、話し始めたことに由来する方法です。最初は、相手が気軽に「イエス」と言ってくれるような話から始めて、だんだんにハードルを上げていく手法です。人は最初に「イエス」を何回か積み重ねると、一貫して「イエス」と言いやすくなる傾向があることを利用した方法です。
プレゼンなどでもよく使われます。「今日はお天気がよくて本当に良かったですね」とか「○○で困ることってありませんか?」など、最初にみんなが「そうだ、そうだ」と思うような内容から話し始めて、段階的に自分のプレゼンを勧めていきます。
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ドアインザフェイス(最初のハードルを高く設定、少しずつ譲歩する)
ドアインザフェイスは、「門前払いされるのを覚悟で、ドアから顔を覗かせて交渉する」ことに由来した方法です。門前払いされるのを覚悟で「大きな頼みごと」をして、断られてから「小さな頼みごと」をしてみると、承諾してもらえる可能性が高くなるという方法です。最初から狙いは「小さな頼みごと」の方なのですが、いきなり頼むよりも、「譲歩する」かたちをとる方が、成功の確率は上がることによるものです。
例えば、「この報告書を明日までに仕上げておくように」と言っておいて、相手が「明日までにはできません」と言ってきたら、「じゃあ明後日までには必ず」と言えば、明後日には確実に仕上げてくる確率が高くなります。「譲歩してもらったのだから、こちらもお返ししなければ」という心理になるからです。
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オプション話法(限られた選択肢から選んでもらう)
人は選択肢を示されると「選びたくなる傾向」があると言われています。「自己決定」できる満足感を味わえるからです。
例えば、デートに誘う時「今度の日曜日、映画とディズニーランド、どっちに行きたい?」と言えば、どちらかを選んでくれやすくなります。この時点で、最初の目的である「デートに誘う」は、達成されたことになります。
クレーム対応の時なども、解決策の提案は一つでなく複数から選んでもらうと、「自分の意思で選択した」という満足感から、円満に解決しやすくなります。
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イメージ話法(具体的なイメージを描かせる)
人は抽象的な言葉よりも「具体的なイメージ」に反応します。料理のメニューも「写真」で見れば注文したくなりますし、洋服も、実際にコーディネートされたものをマネキンが着ていると買いたくなります。
「美味しいお肉ですよ」と100回言うよりも、試食販売で、「お肉がジュージュー焼ける音」や、空腹をそそるような「すき焼きの匂い」に反応して人は寄ってきます。
言葉で説得する際にも、具体的な表現を用いて相手のイメージを喚起すると効果があがります。
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スノッブ効果(誰もやっていない 私にしかできない)
「スノッブ」は、優越意識を意味します。これができるのは「あなただから」「あなたにしかできない」という、相手の優越感を刺激する説得の方法を指します。
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バンドワゴン効果(みんなもやっている)
「バンドワゴン」は行列の先頭の楽隊車。「バンドワゴンに乗る」とは、時流に乗ることを意味します。つまり、みんながやっているのに、「一人だけ取り残されるのはいや」だから、みんなと同じにしたいという心理を活用した説得話法です。
以上、多くの説得技法がありますので、相手に合わせ、状況に合わせて活用してみて下さい。