接遇の考え方
1)接遇とは
接遇とは、応接処遇の略です。
「人と相対した時に、その人をどう扱うか」という意味です。
接客業やサービス業に携わっている人にとっては、「おもてなしの基本」として、今や「あたりまえ」の知識になっているかもしれません。
でも、「知っている」ことよりも、「できるかどうか」が大切。
そして「できるかどうか」よりも、「いつもでどこでも自然にできているか」がもっと大切です。
スポーツと同じ。テニスだって、意識すれば正しいフォームで、素晴らしいボールが打てるけれど、気を抜くと「自分の癖が出てしまう」のでは試合には勝てません。
1日に数回、数時間程度なら集中力を発揮して完璧にできるけど、何回も同じような応対が毎日続くと、いつのまにか集中力が落ちる、馴れが出る、自己流に流れるというパターンでは、プロとは言えません。
正しいフォームが身体に染み込んで、いつでも自然にできるところまでいくことが目標です。
接遇は、何か特別なことしなければいけないとか、極秘テクニックがあるわけではありません。ただ、あたりまえのことを、いかに根気よく続けていくかが重要なのです。
2)接遇の4つのポイント
- 「正確」
- 「迅速」
- 「丁寧」
- 「感じよく」
私達は、サービスを利用する側になった時には、必ず色んな期待を抱いています。
- 「喫茶店でコーヒーを注文したら、紅茶じゃなくてコーヒーが出てくるはずだ」
- 「コーヒが出てくるまで30分もかからないはず。せいぜい10分も待てば出てくるはずだ」
- 「店員は、店に入ったら、すぐに『いらっしゃいませ』と言ってくれるはず。そして、すぐに水を運んで来てくるはず」
- 店員が注文を聞くときに、「何にする?」じゃなく「ご注文はいかがなさいますか」と、敬語を使って聞いてくるはず。
全部できていて「あたりまえ」。全部が期待通りであれば、「不満のない(=ふつうの)サービス」ということになります。ところが一つでも期待がはずれると「不満」。おそらくこの段階でクレームを言う人は少ないかもしれませんが、「サイレントクレーマー」になる可能性があります。そして、大きく期待がはずれると、「クレーム」になります。
一方、「美味しい」「インテリアがすてき」「店員が親切で、感じがよい」等、期待を上回るサービスを提供されれば「満足」します。
そしてさらに「値段の割に、味が抜群に美味しかった」「手作りのプチケーキをサービスにつけてくれた」「2度目に行った時に、店員が顔を覚えていてくれた」等、期待を大きく上回るような満足が得られると、「いいお店ね!」と「感動」し、人にも勧めたくなるでしょう。
これは、一般のお店だろうと、公的機関であろうと、病院だろうと、共通する接遇の基本です。感動を与えることができれば、その人はその店のファンになってくれるでしょうし、行政などの公的機関や病院、介護施設等であれば、大きな信頼を勝ち取ることができます。
信頼関係ができれば、同じ商品やサービスでも「このお店で買おう」「この会社に頼もう」という気持ちになります。
また、お客様が、サービスを提供する側の事情や限界を理解し、納得してくれることにもつながるため、通常なら「クレーム」になるような事柄が起きても、大きなトラブルに発展したり、「炎上」したりすることにはなりません。
3)機能的サービスと情緒的サービス
「正確で迅速なサービス」は、お客様の基本的な「ニーズ」に応える部分ですので、「機能的サービス」と呼ぶことができます。どんなお店や会社でも、品ぞろえに気を配ったり、専門技術を磨いたりと、機能的サービスの充実に日々努力を重ねているはずです。
一方「丁寧で、感じがよいサービス」は、お客様の「感情面」にアプローチするサービスですので、「情緒的サービス」と呼ぶことができます。
人間は「自分が相手からどう扱われているか」ということにとても敏感。対面でも電話でのやりとりでも、感情面が満たされるかどうかが、お店や会社の評価に大きな影響をあたえます。となると、そこで働くすべてのスタッフにとって、「お客様に対して丁寧であること」「感じよく振る舞うこと」といった「情緒的サービス」の技術を磨いていくことは、必須と言えるでしょう。
情緒的サービスの基本は、「相手を大切に扱うこと」ですが、自分は「相手を大切に扱っているつもり」でも、相手がそう感じなければ、大切にしていないのと同じです。「大切に扱っている」ことが「きちんと」伝わるような、態度や表情、聞き方、話し方の技術が求められます。
情緒的サービスの基本は「あいさつ」
最近は、道路工事の職人さんが、通行人に対して「ご迷惑をおかけしております」等と言いながら、一人ひとりに帽子をとって頭を下げてあいさつしている光景に出くわします。現場の職人さんが通行人に丁寧にあいさつをすると、工事がスムーズに進むからだそうです。工事をすれば付近の住民に不便を強いるし、騒音も出る。人の目につくところで仕事をするからこそ、態度が悪ければ即苦情になる。「現場の職人さんのガラが良くない。教育がなってない」となれば、会社事体の信頼を損ねる結果にもなる。
「ちゃんとした教育ができている会社だ」という印象は「信頼できる会社だ」という印象につながり、工事もスムーズに進み、そして仕事の受注にもつながる。
接客業ではない職人さんたちにも、接遇意識が求められる時代ということです。
4)「好印象」を構成する要素とは?
例えば、「大事なお客様(結婚を予定している相手のご両親とか)を自宅にお招きし、最初に対面する際に、することは何か?」と考えてみると、具体的な接遇が見えてくるでしょう。
- 家の掃除、飾りつけ(例えば花を生けるとか)
- 自分や家族の身だしなみ
- あいさつ
- 表情・態度
- 会話(言葉遣いや聞き方、話し方)
おそらく、以上のことに気を配るでしょう。
お店の接客や、役所・病院等の接遇も全く同じ。
大きく分けると 「非言語」+「言語」
だいたいにおいて、人は会った瞬間に無意識に相手を評価しています。「この人、ちゃんとしてそう」「いい人そう」「この人、感じ悪い」「私の苦手なタイプ」。
つまり、「なんとなく感じる」ということ。
「その何となく」の要素は何か?
1.第一印象と初頭効果
まず、印象に直結するのは見た目。目から入る刺激が最も早く、強いからです。
視覚から入ってくる情報を脳の中で分析し、自分にとって好ましいかどうかをジャッジするまでの時間は「7秒」と言われています。第一印象の良し悪しでその後の判断までもが決まることを「初頭効果」と言います。
その後長い付き合いをしていく相手なら、「無愛想だけど案外いい人ね」「感じがいい人っぽかったけど、実はちょっと意地悪ね」とか、第一印象が修正されることもありますが、1、2回しか顔を合わせることがない相手なら、その第一印象が印象の全てになってしまいます。
誰でも自分にとって大事な人に対しては、「良い印象をあたえたい」と思うはず。大切な人と会う時には、身だしなみを整え、あいさつや言葉遣い、表情にも気を配ります。逆に言えば、自分の印象を良くしようという心がけは、相手を大切に思っていることの裏返しです。
ちなみに「おしゃれ」は自分が基準。自分が満足するためのもの。
「身だしなみ」は相手が基準。相手にどういう印象をあたえるかを考えて整えます。
2.表情
表情で一番大切なのは、言われつくされていますが、「笑顔」です。
わかっているだけじゃダメ。いつもできているかどうかが問題。自分は笑顔のつもりでも相手にそう見えないのは笑顔とは言いません。
時折、笑顔を「そんなわざとらしいことできない」と言う人がいますが、笑顔は「わざと作るもの」なので、運命的に「わざとらしい」ものです。
自分が面白いから笑うのは、「自分の感情の発散」=「自己中心的」な笑いです。
笑顔は相手の人を気持ちよくするために、「わざと」=「意識して」作るものです。
いつでもどんな時でも、にこやかなCA(キャビンアテンダント)さん。いつも自然な笑顔に見えますが、わざと作ってます。でも、「あんたの笑顔、わざとらしいから嫌い」っていう苦情は聞いたことがありません。
また、時折「忙しいから、丁寧な応対ができない」という声もよく聞きますが、笑顔に時間は必要ありません。
3.態度
態度は、目から入る言葉と言われますが、案外無意識なもの。
でも、ことばをいくら整えても、表情・態度等の印象が、その人の真意と受取られます。例えば、腕を組んで胸をそらして「ようこそいらっしゃいました」より、無言でもにこやかにお辞儀する方が好印象です。
また、呼びかけれた時は、顔だけを相手に向けて返事するよりも、胸から上を相手に向けて返事をする方が印象がよいでしょう。
人間は、相手に好意をもつほど相手に近づく習性がありますので、前傾姿勢をとって会話をすれば、好意と積極的な関わりを求める気持ちが伝わります。
うなずく際も、小刻みに顔を動かすよりも、ややオーバーアクション気味に、相手の話をごっくんと飲みこむつもりでうなずくと、相手の「聞いてもらった感」が高まります。
以上のように、「ちょっとした身体の使い方」で、相手にどういう印象をあたえるかが大きく変わります。
4.言葉遣い
「敬語を使いすぎると、『よそよそしい印象』になるので、親しみやすさを演出するために、わざとカジュアルな言葉遣いで話す」という接客の仕方もあるようです。
敬語は、相手との距離を「遠ざける」働きがあるため、相手との距離間を考えて、敬語レベルを変えるのは「あり」でしょう。
しかしながら、自分と相手以外の「周囲の人」への影響も考慮することを忘れないようにしましょう。特定の一人のお客様と「ため口で親しげに話す」姿を見て、「羨ましい」と感じる人や、「ここのスタッフはお客様への教育ができていない」と感じる人がいるかもしれません。
どんなに親しい間柄でも、お客様と相対するときは、少なくとも「です・ます」調の「丁寧語」を心がける方が無難です。親しさの演出は、「表情」で十分に補うことができます。
以上、接遇の基本「あいさつ」「表情」「態度」「言葉遣い」の重要性について述べましたが、次に大切なのは「会話の中身」=「聞き方」「話し方」です。
接遇の4つのポイントの「正確」「迅速」を実践するためには、お客様の「ニーズ」を「正確に把握すること」=「聞く」ことが基本。
そして、お客様の「ニーズ」に応えるための「情報提供」=「正確に話す」ことが求められます。
正確に、迅速に、丁寧に、感じよく「聞く」「話す」技術については、次回以降、お伝えいたします。