人材育成の基本 OJT
OJTとは
OJT(オージェーティー)とは「On the Job Training」(オンザジョブトレーニング)の略です。職場内教育の一つの手段で、「仕事を一緒にやりながら仕事を教えるやり方」のことです。通常はマンツーマン、トレーナー対トレーニーで行います。
OJTとは別に、Off‐JT(オフジェーティー)というものもありますが、こちらは仕事の現場を離れて、集合研修や講習などを行うことを言います。
また、人が成長するためには、OJTやOff‐JTによって教わるだけでなく、自ら学ぶこと=「自己啓発」が必要です。
Off‐JTで概要を習い、OJTで実践しながら仕事を覚え、さらに足りないところを自分で勉強していく。
ゆえに、「Off‐JT」「OJT」「自己啓発」は、「職場教育3本柱」と呼ばれます。
OJTのメリット
実践的・効果的
OJTの最大のメリットは、効果的に実践力をつけさせられること。例えばスポーツの指導だって、一回やって見せて、やらせてみて、よかったところと直すべき点をコメントするのが一番有効です。でも、基本的なやり方やルールは、個別に指導するよりも、全員を一堂に集めて一緒に教えた方が効率的。だから、通常はOff‐JTとOJTを併用して行っていきます。
時折「仕事なんて人に教わるもんじゃない。見て自分で覚えるものだ、人から盗むものだ」などと、時代錯誤的なことを言う人もいますが、「見よう見まねで覚えるほど時間に余裕があった時代ははるか昔。現代は会社に入って「即戦力」になることが期待されています。以前なら、半年先輩について学んでいたことを一カ月、一週間で必要なことを覚えなければならない時代。いかに「効率的に即戦力化するか」は、コストの面でも重要な問題です。
また、OJTトレーナーからは、よく「やる気のないやつは何をやらせてもダメですよ」という愚痴が聞かれますが、「やる気にさせる」、すなわち「自己啓発に向かわせる」のもOJTトレーナーの腕次第。OJTトレーナーには、時間がない中で効率的に教え、なおかつ若い人が積極的に仕事に向かう気持ちになるような「指導のスキル」が求められます。
となると、OJTトレーナーに過重な負担がかかるように聞こえますが、実はOJTで成長するのは、仕事を教わるトレーニーよりも、教える側のトレーナーです。
トレーナーの成長
トレーナーとして要領よく教えるためには、自分の知識やノウハウを棚卸しして整理することが必要だからです。また、自分が仕事に熟練しているがゆえに、「そのことがなぜ必要なのか」「なんでその手順で行うのか」、自分では意識しないままに行っている仕事も多いため、いざ質問されたりすると、答えに窮することに気付きます。
教える側に立つことで、その仕事の意味や手順をあらためて考えるきっかけとなったり、あたりまえにやってきた自分のやり方を見直したりする機会になります。
人は、「自分が知っているから」「自分ができるから」と言って、それを人に教えられるとは限りません。言葉で説明することは、自分ですることは全然違う能力が求められるからです。
つまりOJTトレーナーを努めることは、「自らの仕事を振り返り」「説明力を養い」さらに「忍耐力をつけ」、「人を育てるリーダーとして」成長できるチャンスとなります。
OJTの方法
いきあたりばったり教えるのは非効率的です。だから準備が必要。
計画を立てて実行し、振り返ってまた改善する。PDCAを回しながら行います。
(ちなみに、P(Plan)=計画、D(Do)=実行、C(Check)=チェック、 A(Action)=改善 を意味します)
1)準備
① OJT計画シートの作成 「誰が」「いつまでに」「何を」教えるか?
- 業務を整理をして、項目化し、リストアップする
- その中から、教えるべき項目を洗い出し、具体化する
- 今、その人に必要な技能は何かを考慮して選択する
- 計画シートを部署間・係間で共有する
② 期間の設定
- いつまでにどれくらい教えるのか
- 週単位、月単位、例えば100個の項目を1ヵ月 1日5項目×20日 4週間で終了等
- 計画通り進まないこともあるため、どの程度能力がついたか評価して途中で変更する柔軟性も必要
- シート上にまとめて進捗状況を確認する
- 翌月(翌週)の明確な目標を設定
③ 担当者を決める
- 基本はマンツーマン。担当者を一人に決める
トレーナーがいつもつきっきりでいるということが不可能なこともあります。そうすると、居合わせたスタッフが「あ、これ、まだ教わってないのね。これはねこうやってやるのよ」指導が始まります。そしてまた別の日に違う同僚が、「あら、なにやってるのよ」と別な指導が始まる。同じことを教えても、表現が違ったり順番が少し違ったり、色んな先輩が自分なりのやり方を教えてしまうと、新人は混乱します。
「え~あの先輩には、こうするように言われたのに。どうすりゃいいの?」と、困ったり、迷ったり、しまいには不信感が生まれます。ですから、気付いてもその場で指導せず、「こんなことができていなかったわよ」等、担当者に情報を集め、指導を一本化する方がベターです。1人に決めるのが難しければ、メインとサブを決めると良いでしょう。
④ フォロー体制の確立(組織でのバックアップ)
- トレーナーとトレーニーをバックアップする環境づくりです
- トレーナーの時間・労力を軽減するために、通常業務の肩代わりするスタッフ
- トレーナーとトレーニーのシフトのずれをカバーするサポート体制を整えます
2)OJT実践
ざっくり言えば、山本五十六の
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば人は動かじ」です。
① レクチャー
- 「仕事のやり方」だけでなく、「仕事の意義・目的・理由」を説明します。
新人の仕事ぶりを見て、「言われたことはきちんとできるけど、何かモノ足りない」と嘆くリーダーの声をよく耳にします。なぜそうなってしまうのか?
「初めてのおつかい」なら、お母さんに言われた通りの食材を買って帰って来るだけでほめてもらえますが、大人のお使いはそれで困ります。「なぜこの食材が必要なのか?そもそも夕飯のメニューは何なのか?」「なぜそのメニューに決めたのか?」「夕飯の予算はどれぐらいなのか?」等を理解して買い物に行くのかどうかで自ずと「買い物の仕方」が変わります。
新人の仕事を「はじめてのおつかい状態」にしないためには、「仕事のやり方」を教えるだけでなく、「仕事の目的」や「その仕事を行う理由」、その「仕事の価値」を理解させることが、重要となります。
トレーニーが新人であれば、ざっくりとでもよいので、少なくとも仕事の目的や全体像について説明しておきましょう。
- 注意点は「このぐらいは言わなくとも常識だろう」と先入観を持つこと
「このぐらいは言わなくてもわかるだろう」と思って教えると、往々にして次にくることばは、「え!そんなことまで言わなきゃわからないの?!」です。自分が勝手に先入観を持っていたにもかかわらず、相手が自分の期待通りでないとわかった時、相手のせいにしたくなるのが人間です。
人間は自分の感じ方・考え方が「常識」「スタンダード」と思いがちですが、それが相手と一致しているとは限りません。相手との違いが受け入れられないと、それが教える側のストレスになって、「なんでできないの?」「信じられない!」「それぐらい常識でしょ!」と、相手をマイナスの心理に向かわせる言葉を発したくなります。そしてそれは、人間関係をマイナスの方向に向かわせます。
経験値や年代が違えば、「自分の常識」は「相手の非常識」かもしれないという認識をもちつつ、「正確にわかりやすく伝える」技術が必要です。
② 確かめる(聞く・質問する)
理解しているかどうか、「復唱させる」「質問してみる」「説明させてみる」ことで「理解の確認」をします。そしてこれが大きなポイントです。
よく、「『わかった』って言ったのに、やらせてみるとできないんです」とか、「わかってないのに、『わかりました』って言うんですよ」とこぼす人がいますが、「わかった?」と聞かれて「わかりません」とは応えません。わからないって言わないからわかっているんだろう、わかったって言ったからわかったんだろうと考えるのは危険です。
- 教えた仕事を、復唱、あるいは説明させてみる。説明させられるとなれば、教わる側の意識が変わります。
- 次回、次のことを教える前にも「前回教えたことを5分で教えて」
- あるいは、「○○はどうするんだった?」等ポイントの質問してもよいでしょう
- 毎回「質問される」と意識するようになれば、メモも真剣に取ります
- 何回も、まねをさせる、疑問の余地がないほど納得させてからやらせてみる
- 少々無理だと分かってもさせてみて、フォローの際に詳しく指導する等、工夫して「理解の確認」を行うのが重要です。
③ 実践させる
- トレーニーが実践している場面を観察します。観察できないときには、後ほどヒヤリングします
④ 振り返り
実践が終わってからの振り返り。まずは、相手に感想を聞き、自ら振り返らせましょう。自分で仕事を行った後は、「これはうまくいった」「ここはうまくいかなかった。難しかった」等の思いがあるはずです。そこを聞かずに、いきなり「あれはどうだった。ここがダメだった」等、いきなりトレーナーが評価・アドバイスをすると、反発を感じたり、「だって・・・あの時は・・」等、言い訳をしたくなるのが人間です。
ですから、最初に「ガス抜き」のつもりで、相手の言い分を丁寧に聞いてあげれば、相手は話しながら自ら反省に向かいます。そしてそのあとでフィードバックやアドバイスをすれば、素直に耳を傾けてくれます。
ポイントは、「何ができて、何ができなかったのか」「何がよくて、何がよくなかったのか」の仕分け・整理を、自分でさせること。うまくいかなかった点は、その理由や、「どうすればうまくいったか」等、考えさせることが重要です。
なんでもかんでも教えてしまうと、自分では考えず「言われたことだけをやる」指示待ち人間になりかねません。時には「そこをどうすればうまくいったと思う?」「今度やる時には、どこに気をつければいい?」等、質問してみることで、トレーニーが自ら考える習慣を身につけます。
⑤ 評価・フォロー
私たちは、他者からの評価を受けることによって、自分の現状レベルを認識できます。たとえばテストを受けた後、答案に点数が記載され、さらに個々の問題に○や×をつけて返されることで、自分ができていたところ、足りなかったところを知り、次回もっと良い点を取るには何を勉強すればよいのかが把握できます。他者からの評価を受けることは、成長にとって欠かせないことと言えます。
ですので、やらせっぱなしはNGです。必ずフィードバック=「評価」を行います。
ちなみに、「できていたところ」を教えてあげること=ポジティブフィードバックを「ほめる」と言います。
改善点を教えること=ネガティブフィードバックを「叱る」と言います。
ただ日常業務をこなすだけでは人は変わりませんし成長もしません。また、意欲も高まりません。人間は弱い生き物です。「どうせ誰も見ていない」となれば緊張感が薄れます。結果自分に甘くなります。返ってこないとわかっているテストなら本気で勉強する気になれません。
点数が50点なら、「改善点」を伝え、「次60点に持っていこうね」と励まし、PDCAサイクルを回して100点まで持っていくことを目指します。次回「できた!」が実感できれば、喜びが生まれ、次の意欲につながります。そしてそれが、「自己啓発」に向かう意欲を起こさせます。
すなわち、これが育成です。